アロキシ/室内のゾウの意味とは?

アロキシでよかった。

▼アロキシとは?

「アロキシ」は制吐剤で、抗がん剤投与の副作用で生じる消化器症状(悪心や嘔吐)を改善します。5-HT3受容体拮抗型と呼ばれる種類の注射剤で、抗がん剤による嘔吐中枢への刺激を阻害し、吐き気や嘔吐を抑えます。

がんの化学療法によって引き起こされる悪心・嘔吐は、患者の負担も大きく、QOL低下が起こることから、治療を継続する上での重要な課題となっています。

「アロキシ」は、“シスプラチン(前立腺癌、卵巣癌、膀胱癌などの抗がん剤)”などの化学療法前に注射することで、【急性悪心・嘔吐】や従来の治療薬では効果不十分な【遅発性悪心・嘔吐】に効果を発揮します。

▼アロキシの特徴

癌化学療法に伴う吐き気は、一般的に抗がん剤投与後24時間以内に発現する【急性悪心・嘔吐】、24時間以降に発現する【遅発性悪心・嘔吐】に分類されます。しかし、日本においては、遅発性悪心・嘔吐に対して有効な治療薬が少ないのが課題でした。

「アロキシ」(5-HT3受容体拮抗型)の特徴は、従来の制吐剤と異なり、血中半減期が約40時間と非常に長いことです。【急性悪心・嘔吐】だけではなう、24時間以降に発現する【遅発性悪心・嘔吐】にも有効性が認められています。

▼抗がん剤と吐き気

抗がん剤治療を行うと、50%以上の患者が吐き気や嘔吐を経験するといわれています。数日間、車酔いのような状態が続くケースも報告されています。副作用がキツイと、十分な量の抗がん剤を使えなかったり、抗がん剤治療そのものが続けられなくなったりする場合もあります。現代の「制吐療法」では、脳の嘔吐中枢に作用して吐き気を止める薬を使うのが一般的です。しかし、その場合は点滴後2〜5日頃の吐き気を抑える効果が弱く、課題になっています。

2019年12月、国立がん研究センターが中心となったグループが、抗がん剤治療に伴う吐き気や嘔吐を抑える新たな治療法を開発しました。抗精神病薬の一種を使うと、これまで難しかった治療後2~5日頃の嘔吐を持続的に抑えられるということです。研究論文は、12月12日付の「Lancet Oncology」に掲載される予定です。

▼その他の制吐剤


▼アロキシの副作用

「アロキシ」の主な副作用は、便秘、頭痛、血管痛などです。かゆみ、発赤、胸部苦悶感を感じることがあれば、深刻な副作用へと繋がる可能性がありますので、速やかに医師に相談してください。

主な副作用 便秘、血管痛、頭痛、しゃっくり、発疹、頻脈、高ビリルビン血症
重大な副作用 GOT上昇、GPT上昇、γ-GTP上昇、QT延長、アナフィラキシー、アレルギー性皮膚炎、異常感覚、インフルエンザ様症状、悪寒、肝機能検査値異常、眼刺激、関節痛、傾眠、下痢、眩暈、倦怠感、高カリウム血症、高血圧、高血糖、心筋虚血、口内乾燥、弱視、消化不良、上室性期外収縮、上腹部痛、静脈炎、食欲減退、食欲不振、ショック、徐脈、多幸感、注射部位疼痛、潮紅、低カリウム血症、低カルシウム血症、低血圧、ALT上昇、洞性不整脈、洞性頻脈、糖尿、AST上昇、尿閉、熱感、発熱、疲労、不安、腹痛、腹部膨満、不眠症、耳鳴、無力症、静脈拡張、注射部位反応、注射部位紅斑、過眠症、末梢感覚性ニューロパシー、静脈退色、乗り物酔い、電解質変動
その他の副作用 Al-P上昇、LDH上昇、胸部苦悶感、血圧低下、呼吸困難、そう痒感、発赤

▼広告のキービジュアル

広告のキービジュアルは、ソファに座ってくつろぐゾウさん。ビジュアルに登場しているゾウは、映画「星になった少年」に出演したアジア象のランディくんです。

ランディくんが【EMESIS(嘔吐)】と刻まれた物体を踏みつけていますが、これは「アロキシ」が“吐き気を抑える”という意味です。部屋の中にゾウがいるというシチュエーションは“癌に関連する薬”ということを暗喩しています(理由は後述)。

ゾウという動物はとても頭が良く、感情が豊かで共感能力が高く、仲間に対して深い愛情を見せることで知られています。抗悪性腫瘍治療の良きパートナー、といった優しい雰囲気に仕上がっています。

▼部屋の中のゾウ(Elephant in the Room)とは?

強烈な吐き気の原因となるのは、膀胱がんなどでよく使われる“シスプラチン”という成分です。「アロキシ」は、この抗癌剤による吐き気を抑える制吐剤です。

膀胱がんは、海外では「室内のゾウ(Elephant in the Room)」と呼ばれています。部屋の中に象というのはあり得ないことですが、これは英語の慣用句(イディオム)で、“その場にいる人がみんな問題だと認識していながら、あえて触れずにいる”という意味の習慣的な言い回しです。

Newsweekの表紙

雑誌「Newsweek」の表紙でも“室内のゾウ”の風刺が使われている。

膀胱がんは、癌の中でも非常に予後の良い病気で、進行さえなければ命を脅かすことはほとんどありません。そういう傾向もあってか、「分かってはいるけれど、あまり触れたくない、話題にしたくない」という意味で“Elephant in the Room”と呼ばれているのです(膀胱のカタチがゾウの顔に見えるという理由もあると思います)。

また、制吐薬が登場するまでは、抗がん剤治療というのは嘔吐が伴うのが当たり前だ、という認識が医療現場にはありました。こういった点も“その場にいる人がみんな問題だと認識していながら、あえて触れずにいる=部屋の中のゾウ”ということを示唆していると思います。

医療用医薬品は、患者が自分で自分の薬を選ぶことが出来ない、という特殊な業界で成り立っています。つまり、一般的な製品広告は、医薬品にはそのまま通用しないということです。

“室内のゾウ(Elephant in the Room)”のように、一般の人には良く分らないビジュアルでも、専門医にとっては深い意味を持つというのが、医薬品広告の面白いところです。


一般名:パロノセトロン塩酸塩注射剤
製品名:アロキシ静注0.75mg
5-HT3受容体拮抗型制吐剤
大鵬薬品
抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う、急性期及び遅発期の悪心、嘔吐に。

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