ダラス・バイヤーズクラブと抗HIV薬の進化

HIV陽性の男がエイズの薬を外国から密輸し、密売する映画『ダラス・バイヤーズクラブ』を観ました。たまたま衛星放送で流れていたのを観たのですが、出演者の演技に惹き込まれて最後まで興味深く鑑賞。私にとっては、衝撃的な面白さでした。1985年頃の実話を基にした作品です。

以下、映画のネタバレ注意

 

『ダラス・バイヤーズクラブ』は、マシュー・マコノヒー演じる奔放なテキサス男が、突然の事故で救急搬送されたのがきっかけでHIV陽性と診断される――という物語です。

医師に「余命30日」と宣告され、最初は反発しますが、やがて感染したことを受け入れて生きる術を模索します。図書館へ行って調べたり「Lancet」を読んだりして、当時FDA(アメリカ食品医薬品局)がリスクに対する有用性の観点から、使用を認めていなかった抗HIV薬を世界中から密輸し、商売を始めます。これって実話なのかよお・・・、とド肝を抜かれる展開です。深刻な話なのですが、笑えるところもあり、エンターテインメントとして痛快に作ってあります。

映画であらためて気づかされたのですが、1985年頃ってHIVに対してかなり偏見があったのですね。よく考えれば想像できるのですが、時間が経ってしまうと思い出せないものです。HIVについて、情報がほとんどなかった当時の世の中の雰囲気を上手く描いていたと思います。AIDSが原因で嫌がらせを受けたり、仲間が一人残らずツバを吐きながら主人公の前から去ってゆくのは辛かったです。

映画の中で日本の渋谷が登場して驚きました。医療関係者が金儲けのために主人公へインターフェロン(!)を横流しします。当時はインターフェロンがHIVに効くかもしれない、と真剣に議論されていたそうです。

映画の中で印象的だったのは、抗HIV薬“AZT(アジドチミジン、別名ジドブジン)”の存在です。日本人の満屋裕明先生(熊本大学医学部内科学教授)が発見したことでも有名な【世界初の抗HIV薬】です。映画の中では、副作用がキツイことや飲み続けると耐性が出来てしまうこともあって悪者あつかいですが、今でも「抗HIV治療ガイドライン」に記載されている非常に効果の高い薬です。

抗HIV治療ガイドライン/AZT

このAZTがきっかけとなって、その後世界中で抗HIV薬の開発に力を入れることになります。そしてその結果、数多くの抗HIV薬が誕生し、薬を組み合わせることで耐性を起こりにくくすることにも成功しました。

抗HIV薬は、近年で最も進化した薬といっても過言ではありません。かつては治療薬がほとんどなく“死の病”という印象でしたが、現在では薬の開発が進み、怯えながら死を待つだけの病気ではなくなりました。それまで複数の薬をたくさん飲まなければいけなかった治療も「スタリビルド」「ゲンボイヤ」のような1日1回1錠で済む薬まで登場し、患者のQOLが大きく向上しました。

この映画の主人公は最終的に法廷で争います。主人公は決して「弱者のために世の中の仕組みを変えたい!」とか、大それたことを考えていたわけではないと思います。「これって、何かおかしくないか?」という至極シンプルな動機だけだったように感じます。結局裁判には負けてしまいますが、こうした“人間らしく生きることの権利”としての訴えが社会の議論を呼んで、その結果、自国外の抗HIV薬の輸入販売が実現していったのだと思います。ひとりの男の行動が、世界中のHIV陽性患者に希望を与えるきっかけとなった、と言っていいのかもしれません。

※FDA(Food and Drug Administration):米国政府機関として、医療品規制と食の安全を守っている。日本で言うところの厚生労働省のような存在。

▼HIV検査はどこで受けられる?

HIVの検査は全国の保健所や自治体の特設検査施設(東京都南新宿検査・相談室)で、無料・匿名で受けることができます。有料になりますが、医療機関でもHIV検査を希望すれば受けることができます(約5,000円〜10,000円)。ちなみに献血された血液はHIV検査を行っていますが、HIV検査の結果は献血者本人には伝えないという決まりがあります。理由は、厳格なHIV検査を行っても、どうしてもHIVウイルスを見つけにくい期間(通常感染から数週間)があるので、HIV検査が目的の献血をなくすためです。

▼健康診断でHIV検査

厚生労働省は、健康診断を受ける際にHIV検査(エイズウイルス検査)が無料で受けられるモデル事業を2018年度から始めると発表しました。早期に感染が発見できて治療を行えば、エイズウイルスの発症を抑えることが可能で、パートナーへの感染リスクも減らせます。HIV検査を受けやすくして、早期発見・早期治療でエイズ発症防止につなげる考えです。試験的に数カ所で始め、実施施設を増やしていくということです。

▼HIV自己検査キット

アメリカなどでは、HIV自己検査キットが薬局で普通に手に入りますが、日本の薬局では入手困難です。日本でのHIV検査は、病院か保健所での検査が基本です。家庭で使用する自己検査キットとして日本で承認されたものはなく、海外からの輸入品となります。HIV自己検査キットはインターネットで購入可能ですが、偽造品や粗悪品が混入している場合もあります。アメリカでは、従来よりも簡単に検査できる“唾液による家庭用HIV検査キット(OraQuick In-Home)”が承認されていて、薬局などの店頭で購入が可能になっています。日本でも、HIV検査が簡単に出来る環境が早く整うと良いなと思います。

性感染症検査
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