メバロチン/高脂血症治療を変えた日本初のスタチン

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▼メバロチンとは?

「メバロチン」は、血液中のコレステロールを低下させる高脂血症治療剤です。スタチン系に分類される種類の薬で“HMG-CoA還元酵素阻害薬”とも呼ばれます。脂質異常症治療の分野では、治療のあり方を大きく変えた日本初のスタチン(プラバスタチン)として、広く使用されています。

1993年、「メバロチン」は国内医療用医薬品売上高で過去最高の1000億円を超え、発売からわずか4年あまりで、驚異的なブロックバスターへと成長していきました。

それまで日本の医薬業界では、海外の製薬会社が開発した薬剤を導入するというのが一般的でしたが、「メバロチン」の登場がきっかけとなって“日本でも画期的な新薬が開発できる!”という風潮に変わったと言っても過言ではありません。

「メバロチン」はスタチン系高脂血症治療剤の中で一番古く(1989年発売)で、比較的副作用も少ない薬です。発売から25年以上経つ古い薬ということで、エビデンスも豊富にあり、長期服用時の安全性も確立されています。ジェネリック(後発品)も豊富に出ています。

▼微生物からスタチンを発見

1971年、三共(現、第一三共)はコレステロール合成阻害薬となる有効成分を見つけるために研究班を起ち上げました。高コレステロール血症が動脈硬化の重大な要因となることが認識されつつある時代で、脂質低下作用が強い新しい作用機序の新薬が求められていました。

研究班は1年半以上かけて、微生物の中からコレステロールの合成を阻害する物質を探しました。そして、カビや植物病原菌など6,000以上の中からコレステロール合成阻害物質(コンパクチン)を発見しました。

新しい高脂血症治療薬の誕生に期待が高まる中、ラットを使った薬効試験が始まりました。しかし、ラットにコンパクチンを与えてもコレステロール値は下がりません。試行錯誤は3年以上続きました。

▼転機はニワトリ

日本発の創薬の実現が危ぶまれた頃、転機が訪れました。ラットの代わりにニワトリを用いて試験を行ったのです。ニワトリはコレステロールを沢山含む卵を毎日のように産みます。ということは、ニワトリの体内では多くのコレステロールが合成されているはず――、という閃きがきっかけでした。これが“ラットに効かない薬は人間にも効かない”という思い込みを覆す大胆な試みとなります。結果的に、コンパクチンを投与したニワトリのコレステロール値が30〜40%低下していることを発見。薬効が動物種によって異なる可能性が判明しました。

1978年にビーグル犬を用いた長期試験が開始され、1979年、ついに犬の尿中代謝産物の中から、強力なコレステロール阻害物質“プラバスタチン”を発見したのです。そして、1989年10月に高脂血症用剤「メバロチン」(プラバスタチン)として発売。世界的には、ロスバスタチン、シンバスタチンに次ぐ三番目のスタチンとして新たな時代を切り開きました。

▼メバロチンの特徴

スタチン系の高脂血症治療剤は、コレステロール低下作用が強く、心筋梗塞の予防効果や予後改善効果にも実績があり、いくつもの大規模臨床試験で証明されています。「メバロチン」を高脂血症患者へ処方した場合、心筋梗塞などのリスクを約30%減らせることが報告されています。特に、狭心症や心筋梗塞をすでに発症している患者や、高血圧や糖尿病のを併発している患者への有用性が高いのが特徴です。

日本でも厚生労働省の委託研究事業として、心臓病の予防効果を調べる大規模臨床試験(MEGA Study)が行われました。心臓病のない高脂血症患者約8千人を対象に、「メバロチン」を服用する患者と、服用しない患者に分け、5年間追跡調査するという内容です。その結果、「メバロチン」を服用していて心筋梗塞や心臓病を発症した人は66人でした(服用しない人では101人)。「メバロチン」を服用することで、心臓病を発症するリスクが30%以上少なくなることが分かりました。

MEGA Study:Management of Elevated Cholesterol in the Primary Prevention Group of Adult Japanese Study

日本老年医学会が発行している【高齢者脂質異常症診療ガイドライン2017】では、スタチン系高脂血症治療薬を冠動脈疾患の二次予防に推奨しています。ただし、“スタチン系高脂血症治療薬は、高齢者の糖尿病の新規発症を増加させる”とも指摘しており、高齢者の処方には充分な注意が必要です(追記:2017年11月)。

▼高コレステロール血症とは?

高コレステロール血症という病気は、血液中のコレステロールが多すぎる状態のことを指します。自覚症状がない場合でも、長い時間をかけて少しずつ動脈硬化が進むと、心筋梗塞や狭心症といった深刻な病気の原因となる可能性があります。日常的にコレステロールを低下させておけば、将来発症するかもしれない心筋梗塞や脳梗塞などの深刻な病気のリスクを減らすことが可能です。「

心筋梗塞や脳梗塞の多くは、血管内にこびりついて出来たプラークというコブ(粥腫)が破裂して、それが血栓となって血が流れなくなってしまって発症します。「メバロチン」などの医薬品を使ってコレステロールを十分に下げてやると、プラークが安定して破裂しにくくなります。一度罹患した患者の再発防止にも役立ちます。

▼スタンダードスタチンとストロングスタチン

スタチン系の高脂血症治療薬は、効果の強さで【スタンダードスタチン】【ストロングスタチン】に分けられます。「メバロチン(プラバスタチン)」は、スタチン系の中では【スタンダードスタチン】に分類される薬剤です。LDLコレステロールを低下させる効果は、【スタンダードスタチン】で約15%、【ストロングスタチン】で約30%と言われています。

基本的に、実際のLDLコレステロール値と目標値の幅が30mg/dL以下の場合は「ローコール」や「メバロチン」のような【スタンダードスタチン】が処方されます。一方、LDLコレステロール値と目標値が50mg/dL以上乖離している場合は、初めから「リピトール」や「クレストール」といった【ストロングスタチン】が処方されます。

▼脂溶性の薬と水溶性の薬

スタチン系に分類されるHMG-CoA還元酵素阻害薬は【脂溶性の薬】【水溶性の薬】のふたつのタイプに分類されます。「メバロチン」は、水溶性のHMG-CoA還元酵素阻害薬です。一般的に脂溶性の薬は、内臓や細胞へ薬の成分が伝わりやすいと言われています。その為、脂溶性の薬は効果が出やすい一方で、水溶性の薬に較べると副作用が発現しやすい傾向があります。

ローコール スタンダードスタチン 肝代謝、メバロチンよりも効果強、脂溶性
メバロチン スタンダードスタチン 腎排泄、細粒剤あり、日本初のスタチン、水溶性
クレストール ストロングスタチン 胆汁排泄、スタチン系最強、水溶性
リバロ ストロングスタチン 胆汁排泄、スタチン初のOD錠、脂溶性
リピトール ストロングスタチン 肝代謝、配合錠(カデュエット)あり、グレープフルーツNG、脂溶性

▼主なスタチン系「高脂血症治療薬」




▼メバロチンの副作用

主な副作用としては、腹痛や吐き気などの胃腸系と肝機能値の異常が報告されています。深刻な副作用はめったにないですが、筋肉が障害を受ける“横紋筋融解症”には注意が必要です。具体的な症状としては、手足のしびれ、けいれん、筋力低下、筋肉痛、歩行困難といった症状が報告されています。

特に腎臓に障害がある患者、腎機能が弱まっている高齢者は注意が必要です。また、フィブラート系の高脂血症治療薬と一緒に飲むと“横紋筋融解症”が起こりやすいと言われています。指定された検査を受け、定期的に副作用のチェックしてもらうことが重要です。

重い副作用 横紋筋融解症、ミオパチー、肝機能障害、過敏症、血小板減少、間質性肺炎
その他の副作用 肝機能値の異常、胃の不快感、吐き気、腹痛、下痢、頭痛、不眠、発疹、かゆみ

▼主な高脂血症治療薬

フィブラート系 中性脂肪を下げる効果が強いので、中性脂肪が高い患者に使用されることが多い。善玉(HDL)コレステロールを上げる効果もあり。
スタチン系 悪玉(LDL)コレステロールを下げる効果が強い。善玉コレステロールを上げる効果は弱い。
レンジ系 悪玉コレステロールを下げる効果あり。スタチン系と併用することが多い。
プロブコール 悪玉コレステロールを下げる効果あり。
ニコチン酸 善玉コレステロールを上げる効果あり。悪玉コレステロールを下げる効果は弱い。
小腸吸収型 悪玉コレステロールを下げる効果あり。スタチン系と併用することが多い。
PCSK9 悪玉コレステロールを強力に下げる。重度の患者に使用。注射剤。

▼国内市場のブロックバスターが消滅(追記:2018年7月)

1993年「メバロチン」の登場以降、毎年登場していた国内市場のブロックバスター製品ですが、近年続いている薬価改正の影響を色濃く受け、2017年度の時点で完全に途切れてしまいました。各社の柱がオンコロジー領域や中枢神経領域、希少疾患領域といった市場へシフトしていく中、今後ブロックバスターの再来はあるのでしょうか。

▼広告のキービジュアル

広告のキービジュアルは、笑顔の初老の夫婦。モノクロ写真を使うことで、万人受けする柔らかい雰囲気を創り出しています。インパクトはありませんが、時間が経過しても、古臭くなりにくいビジュアルです。モデルに素人の方を使ったことで、画面に現実味や親近感が生まれています。

一般名:プラバスタチン ナトリウム
製品名:メバロチン錠5,10、メバロチン細粒0.5%,1%
高脂血症用剤/スタチン系/HMG-CoA還元酵素阻害剤
第一三共
MEGA Study
日常診療のエビデンス

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