▼7000億円以上の売上減
いままで、長期収載品は、研究開発費を回収したあとは、売れば売るほど利益を産み出すという“金の卵”でした。しかし2018年の薬価改訂で、日本の医薬品メーカー全体で7000億円以上の売上げが減少する、と試算されています。また2021年度からは薬価の毎年改定が導入される予定で、今まで以上に厳しい価格の引き下げが行われます。
アメリカの場合、特許が切れた90%の製品が後発品(ジェネリック)へ置き換わっています。海外の製薬メーカーはこのサイクルを巧く利用して、長期収載品のノウハウを次の新薬開発へ回すことで成功しています。日本でも、ジェネリックの使用頻度を高め、長期収載品の薬価を引き下げることが長い間議論されてきました。しかし、一向に医療費の抑制が進まないため、厚生労働省は薬価ルールの改訂で強制的に薬価を引き下げ、後発品への切り替え率80%を実現しようとしています。
▼変わり始めた長期収載品の扱い
薬価制度改革によって、長期収載品が大幅な価格引き下げを受ける中で、製薬メーカーによる長期収載品の扱いが変わってきています。大手製薬メーカーでは、一部の長期収載品から撤退し、後発医薬品メーカーや子会社・関連会社が引き継ぐという枠組みが出来つつあります。特許が切れた薬が、すぐにジェネリックへ切り替わる世界が、ようやく現実になろうとしています。
厚生労働省は、大手製薬メーカーが長期収載品から撤退し、後発品メーカーへ引き継がれるという筋書きを描きましたが、本当に実現するのかは疑問です。ルールには必ず抜け穴があり、そこを巧く利用して、イタチごっこになる、という気もします。特許切れの長期収載品で好調なのは、オーソライズド・ジェネリック(AG)のみというのが現状です。
欧州製薬団体連合会の調査によれば、日本の医療用医薬品市場は、今後十年でマイナス成長に入り、年間1.5%市場が縮小していくと予測されています。既に大手の製薬会社の一部は、米国を中心とした海外の市場へ活路を見出そうとしています。
▼環境の変化は、新しいビジネスチャンス
薬価を下げられ、数量削減も進む中、日本の製薬メーカーはどうやって利益を出せば良いのでしょうか?
それにはやはり、コスト削減しかありません。これ以上売上を伸ばせなければ、経費を落とすことで利益を出していくという考えです。後発品メーカーへの製品売却や子会社への引き継ぎといった動きは、長期収載品やジェネリックといった“オフ・パテント・ドラッグ(特許期間を満了した製品)”を本社から切り離すことによって、コストを抑えながらも、なんとか市場を掌握していきたいという製薬メーカーの狙いが覗えます。
今後の環境の変化に応じて、大手製薬メーカーと言えども変わっていかなければ、生き残っていけません。今後は、バブル崩壊以降に銀行が淘汰され、再編していったように、製薬メーカーも生き残りを賭けて合併・統合が行われていくでしょう。しかし、環境の大きな変化は、新しい市場が生まれるビジネスチャンスと捉えることも出来るはずです。平成が終わるタイミングで、まさに次の時代が始まろうとしています。