新人のための医薬広告キービジュアル入門

▼制限の中で知恵を絞って表現されるキービジュアル

医療用医薬品(プロドラッグ)は、患者が自分で自分の薬を選ぶことが出来ない、という特殊な業界で成り立っています。つまり、一般的な製品広告は、医薬品にはそのまま通用しないということです。一般の人には良く分らないキービジュアルでも、医者にとっては深い意味を持つというのが、医薬品広告の面白いところです。

医療用医薬品には不適切な宣伝が行われないように定めた厳格な「プロモーションコード」というものが存在します。例えば、「事実誤認の恐れのある表現」や「誇大な表現」は使えません。キャッチコピーなどは、限られた事実しか言えません。厳しい世界のようですが、命にかかわる業界だけに、高い倫理観が求められます。

そうした中で知恵を絞り、制限の中で工夫を凝らして創り上げられるのが、医療用医薬品広告のキービジュアルなのです。

▼プロマネの存在

医療用医薬品広告のビジュアルを作成する際に指揮を執るのは、プロダクトマネージャー(PM:プロマネ)という医療業界特有の職種です。

製薬会社が力を入れる主力製品などは、製品ごとにプロマネが存在し、製品の戦略、販売プロモーション、資材(ビジュアル、製品情報概要、添付文書、インタビューフォーム、製品広告など)を作成し、製品の開発から販売まですべてに携わります。社内では各部門間の調整、社外では結果(売上)が求められるプロ野球の監督のような立場です。

特に新製品の場合、その製品の“顔”となるキービジュアルによって、その製品の印象が大きく変わるため、キービジュアルは販売プロモーションの重要な要素のひとつであると言えます。プロマネは、より良い製品にするために様々なアイデアを採り入れて製品のビジュアルを創っていきます。

▼キービジュアル(メインビジュアル)とは?

キービジュアル(メインビジュアル)とは、その製品の柱となる具象的なイメージのことを指します。キービジュアルには、その製品が持つ特徴や市場でのポジション、メッセージ性が込められています。具体的なイメージ(写真やイラスト)の他に、ロゴやシンボルマーク、キーカラー、キャッチコピーなどを組み合わせて、伝えたいことを可視化していきます。

良いキービジュアルというのは、視た人がその製品の新しい魅力や価値を想像できる構造になっています。製品の特徴をそのまま列挙しても、キービジュアルとしては成立しません。例えば「降圧と掛けてパラシュートと解く、その心は? ゆっくり下がるでしょう」というような落語の謎掛けに近い発想が必要です。

【良いキービジュアルの5つの条件】 1.新鮮である 2.美しい 3.わかりやすい 4.誠実である 5.シンプルだが細部まで配慮

▼特に良く考えられた医薬品のビジュアル7選


膀胱がんは、海外で「Elephant in the Room」と呼ばれています。これは“その場にいる人がみんな問題だと認識していながら、あえて触れずにいる”という意味の習慣的な言い回しです。


100mg/10mgの合剤で「百十」→百獣の王(ライオン)→ジャングル大帝です。


「カナグル」+「テネリア」で「カナリア」。布の結び目が小鳥の“カナリア”になっています。


SGLT2阻害剤は、リンゴの樹皮から抽出された成分(フロリジン)を基に研究されました。


胸に三日月の形の模様がある月の輪熊(ツキノワグマ)。月は夜→眠りのイメージです。クマは冬眠するので、不眠症治療薬にはぴったりです。


カヤックの滝下りで“降圧”を表現。主成分のバルサルタンとアムロジピンを合わせて、“V”+“A”=“X(エックスフォージ)”というわけです。


製品の特徴である“ダブルチェーンドメイン”を、「W」の形をしている星座のカシオペアを使って表現しています。

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