リッツ、ブランド対決の勝敗
みなさん、リッツパーティしていますか?
リッツとはもちろん、女優沢口靖子さんのコマーシャルでお馴染みのクラッカー「リッツ」のことです。私も子供の頃、一度はやってみたいと憧れていました。しかし、2016年、衝撃的なニュースが飛び込んできました。山崎製パンがクラッカーの「リッツ」の生産を終了する、と発表したのです。ご存知の方も多いと思いますが、実は「リッツ」や「オレオ」は、もともと米国ナビスコ(現モンデリーズ・インターナショナル)のブランドで、ヤマザキがライセンス契約をして製造販売していた商品でした。本家モンデリーズが日本での自社製造・販売へ切り替える方針を固めたため、ライセンス契約が2016年9月で切れることになりました。
「リッツ」はその後、モンデリーズ・ジャパンから製造・販売されており、ヤマザキナビスコはヤマザキビスケットへ社名を変え、「ルヴァン」という類似製品を発売しました。従来のパッケージはモンデリーズへ移行し、当然ですがヤマザキ版「リッツ」はまったく新しいデザインとなりました(赤い社名ロゴ以外は良いデザインです:えー、個人の感想です)。
モンデリーズは、ヤマザキに対し「ナビスコ製品のブランド認知への多大な貢献をしてきてくださったことに大変感謝」とコメントしていますが、裏では武蔵と小次郎のような攻防が繰り広げられているに違いありません。大型量販店の棚の確保という点では、ほぼ互角といった滑り出しとなりましたが、流通力や味の違いなどで徐々に差が出始めてきました。レジで導入されているPOSシステムの集計によれば、全国のスーパーマーケットにおける1店舗当たりの売上点数で、ルヴァンが約110点、リッツが約60点とルヴァンがリッツにダブルスコアに近い差をつけて大勝しています(2016年12月時点)。
“ブランド”よりも、味や品質やイメージ(沢口靖子さん?)を消費者が選んだのかな、と感じましたが、「リッツ」vs「ルヴァン」の闘いはまだ始まったばかりです。どちらに軍配が上がったのか結果が出るのは、もう少し後になりそうです。個人的には、日本国産品ということと、CMに沢口靖子さんを起用しているという点で「ルヴァン」を応援していますが。
医薬品でも起こった“ブランド承継問題”
前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。クラッカーの「リッツ」と同じようなことが医薬品業界でも起こったのです。ヨウ素系の殺菌消毒薬「イソジン」のブランド承継問題です。イソジンといえば、Meiji Seikaファルマのカバくんが有名ですが、実はイソジンブランドも米国のブランドで日本(当時:明治製菓)がライセンスを買って製造販売していた製品でした。
「リッツ」と同じような経緯で、Meiji Seikaファルマによる「イソジン」ブランドの販売は2016年3月で終了となりました。以降、イソジン製品は本家のムンディファーマが販売を委託するシオノギ製薬が販売権を承継することになりました。契約が切れたMeiji Seikaファルマですが、せっかく育てたブランドを手放すのはもったいないということで、同じ内容の製品を「明治うがい薬」として販売しています。医療用としては“ポビドンヨード「明治」”の名称で、ジェネリックとして販売。先発品だった本家が後発品になってしまう、という奇妙な状況が起こっています。
マスコットのカバくんは、Meiji Seikaファルマが創ったキャラクターですので、そのまま「明治うがい薬」のマスコットとなりました。一方で、シオノギ製薬も新たに「イソジン」ブランドのマスコットキャラクターを発表したのですが、これがカバくんにあまりにもそっくりだったため、裁判となりました。
結果として和解が成立し、ムンディファーマは新たに「イソジン」ブランドのマスコットキャラクターとして、イヌをモチーフとしたイソくんを発表。これもカバくんに雰囲気が似ているので、何とも微妙ですが・・・(えーと、個人の感想ですよ?)。meijiのカバくんは、お菓子の“カールおじさん”などを手掛けた会社が創っただけあって秀逸なデザインです。一朝一夕で真似できるものではないのだなあと感心します。
イソジン・ブランドを取り返す意味とは?
ムンディファーマはなぜそこまでしてイソジン・ブランドを取り戻したかったのでしょうか?
大きな理由として、イソジンの知名度に乗っかって、ムンディファーマの日本での知名度を上げたい、という企図が考えられます。一般薬、いわゆるOTC医薬品は医療用医薬品とは違って、テレビコマーシャルなどを使って比較的自由にプロモーションができるので、一般の人に社名を知ってもらうには好都合です(知名度向上が理由でOTC薬を手放さない製薬企業も多い)。ムンディファーマは数年以内に日本でOTC医薬品を発売すると発表しています(既に海外で販売されている女性のデリケートゾーン向け消毒薬や傷薬を投入予定)。
またムンディファーマは、日本での悪性リンパや疼痛の医療用医薬品の強化を計画に入れており(2017年7月末にがん疼痛治療薬「タペンタ」の権利を取得したと発表がありました)、イソジン・ブランドの獲得は日本市場を狙うための、今後の布石と言えそうです。「イソジン」は医療用もOTC用も両方ありますので、知名度アップにはうってつけだと思います。メリットはそれだけではありません。イソジン・ブランドは優秀な人材の確保に充分な効果を発揮します。人はまったく知らない会社よりも、知名度のある製品を扱っている会社の方へ集まってくるからです。ムンディファーマの社員は現在約50名と、製薬企業としては少なく、社員数は今後倍以上に増えると言われています。
明治が優勢か
イソジン対決の勝敗ですが、こちらはMeiji Seikaファルマに分がありそうです。本家カバくんのキャラクターの魅力、それから既に「meiji」という名称が「イソジン」に負けないくらいのブランド力を持っていますので、“うがい薬”や“ポピドンヨード”に「明治」と屋号がつくだけで、ブランドとして成立してしまっていると思うからです。
いずれにせよ、「リッツ」も「イソジン」も本当の勝者は数年経たないと分からないですね。映画「七人の侍」のように“勝ったのは俺たちじゃない、消費者たちだ――”という結末もあるかもしれませんし。