▼アクテムラとは?
「アクテムラ」は、最先端のバイオテクノロジー技術によって開発された国産の生物学的製剤です。もともと“キャッスルマン病”という非常に稀なリンパ増殖性の病気にしか適応がなかったのですが、2008年に新たに“既存治療で効果不十分な、関節リウマチ”への適応が追加承認されました。2013年4月時点で、国内では(主に関節リウマチの治療薬として)約1万名以上に投与されています。
関節リウマチでは、インターロイキン6(IL-6)というサイトカインが体内で過剰に作られ、炎症に由来する様々な症状を引き起こしています。「アクテムラ」は他の生物学的製剤とは異なり、身体の中で炎症を起こす原因となる物質“サイトカイン”の働きを抑制する薬剤です。炎症による様々な症状を抑え、関節破壊の進行を抑制し、日常生活の関節動作を改善します。ただし、関節リウマチを根治させる薬ではありませんので、長期間に亘って投与を継続する必要があります。
「アクテムラ」は点滴と皮下注射が用意されており、どちらでも投与可能な生物学的製剤です。皮下注射は2週間に1度の間隔で、 点滴は4週間に1度の間隔での投与となり、1回の点滴時間は1時間程度です。点滴投与の場合、体重に応じて使用する薬の量が変わります。生物学的製剤は高価なことがネックですが、「アクテムラ」は標準使用量で最も安価な生物学的製剤です(2013年6月時点)。オートインジェクターは糖尿病治療薬などでは一般的ですが、関節リウマチの治療薬としては日本で初めての登場です。ボタンを押すだけで注射が可能なので、患者の負担が軽減されるとともに、針刺し防止機能で感染のリスク軽減も期待できます。
▼リウマチの治療
リウマチの治療方法は大きくふたつに分類できます。
【1】:痛みをとりのぞく薬(非ステロイド性鎮痛薬、ステロイド)
【2】:炎症をブロックしてリウマチ自体を抑える薬(抗リウマチ薬)
抗リウマチ薬は大きく3つに分類できます。
【1】免疫調整薬:リマチル、アザルフィジン、シオゾール他
【2】免疫抑制薬:ブレディニン、リウマトレックス他
【3】生物学的製剤:レミケード、エンブレル、ヒュミラ、アクテムラ他
「アクテムラ」は、抗リウマチ薬に分類されます。「アクテムラ」含む生物学的製剤の特徴は、効果が高い代わりに副作用が強く、関節リウマチでは医療費の助成が十分されていないので、高額になってしまうという点です。
▼アクテムラの副作用について
「アクテムラ」は他の生物学的製剤と同様に免疫機能を抑制させることで炎症を抑える仕組みなので、感染症にかかりやすいという副作用があります。一般的に感染症にかかると血液検査で炎症マーカー(炎症の指標)が上昇しますが、「アクテムラ」は炎症を強力に抑える効果があるため、感染症のサイン(炎症マーカー)が判りにくくなります。風邪だと思って放置していると、重症になってしまうことも考えられますので、風邪の症状(発熱、のどの痛み、咳、鼻水)を感じた場合は、すぐに医師や薬剤師に相談する必要があります。
▼「レミケード」との違い
「レミケード」は先行して開発・発売された分子標的薬(抗TNF療法)です。炎症に関連するサイトカインは何種類もあるのですが、その中でも関節リウマチの要因となるのが“TNFα”と“IL6”というサイトカインです。「レミケード」はTNFαをブロックするのに対し、「アクテムラ」はIL6の働きをブロックします。つまり、ターゲットが異なります。「レミケード」を使っていて、効果が出ない場合や副作用がひどい場合は、「アクテムラ」へ切り替えることで改善が期待できるかもしれません。「レミケード」が効かない場合の次の治療法は、まだ確立していません。
▼リウマチに関連する薬
▼難病の適応追加(追記:2017年8月)
2017年8月、「アクテムラ」の“高安動脈炎”と“巨細胞性動脈炎”の適応追加が承認されました。“高安動脈炎”と“巨細胞性動脈炎”は、それぞれ難病に指定されています。
▼成人発症スチル病で適応追加申請(追記:2018年5月)
2018年5月、「アクテムラ」は“成人発症スチル病”の適応追加について承認申請を行いました。“成人発症スチル病”は、炎症性関節炎の一種で、自己免疫疾患として難病指定を受けている病気です。日本全国に約4,760名の患者がいるとされています。近年、現場では「アクテムラ」が処方されていますが、保険適応外ということが問題となっていました。
▼効能効果に新型コロナ肺炎が追加
2022年1月、「アクテムラ」の効能効果に「SARS-CoV-2による肺炎(ただし、酸素投与を要する患者に限る)」が追加されました。新型コロナによる肺炎で、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)を導入する患者に使用されます。申請から約1ヵ月というスピード承認となりました。 今回の承認は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者を対象とした、海外ランダム化非盲検プラットフォーム試験(RECOVERY試験)、ロシュ社が実施した3つの海外第3相プラセボ対照ランダム化二重盲検多施設共同試験(COVACTA試験、EMPACTA試験、REMDACTA試験)、および国内第3相単群多施設共同試験(J-COVACTA試験)等の成績に基づいています。 「アクテムラ」はこれまでの臨床試験成績から、COVID-19治療薬として、新型コロナウイルス感染症患者における死亡率の低下が認められています。【用法及び用量】 〈SARS-CoV-2による肺炎〉 通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注する。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、トシリズマブ(遺伝子組換え)として8mg/kgを1回追加投与できる。
【参考情報】
▼アクテムラ、重症COVID-19治療薬として欧州で承認を取得 https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20211208113000_1171.html
▼アクテムラの国内第2相臨床試験結果(新型コロナウイルス感染症)https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20210209150000_1078.html
▼アクテムラとレムデシビル併用 第3相REMDACTA試験(新型コロナウイルス重症患者)https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20210311150000_1086.html
▼広告のキービジュアルについて
広告のキービジュアルは、“IL”と刻まれた銀色の歯車です。歯車は関節のイメージで、周囲の炎は炎症のイメージです。このビジュアルは予告編的な広告なので、全貌はまだ明らかにされていません。ストーリー性を感じさせるような期待感を煽る作りになっています。
製品名:アクテムラ 点滴静注用、皮下注シリンジ・オートインジェクター
一般名:トシリズマブ(遺伝子組換え)
ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体
中外製薬
ロシュ