SMART療法 喘息治療の新ステージへ
※SMART療法:シムビコートを定期吸入に加えて、頓用吸入する治療法
▼シムビコートとは?
「シムビコート」は、気管支拡張剤とステロイド性抗炎症剤のふたつの薬を含んだ吸入剤です。炎症を抑制することで発作を予防し、気管支を拡げ、呼吸を楽に改善します。主に、気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患の症状の緩解に用います。
2種類の有効成分のひとつは、ブデソニド(パルミコート)というステロイドです。ステロイドには強い抗炎症作用があり、日常的に気道の炎症をおさえることで喘息の発作を予防します。もうひとつは、気管支拡張作用を持つβ2刺激薬のホルモテロール(アトック、オーキシス)です。こちらは呼吸の通り道を拡げる効果があります。心臓への負担が少なく、効き目が早くて、効果持続時間が長いのが特徴です。“強い”ステロイドと、“速効・長時間”のβ2刺激薬を配合した吸入製剤。ふたつの成分の相乗効果で、気道の炎症と狭窄の両方を一挙に改善します。
副作用は少ないのですが、使用方法や吸入回数に注意が必要です。毎日規則的に吸入する必要がありますし、過不足なくきちんと吸入回数を守る必要があります。2012年には、慢性閉塞性肺疾患に対する効能・効果が新たに追加承認されました。
▼β2刺激薬+ステロイド合剤市場の動向
β2刺激薬とステロイドの配合剤は、現在4製品が販売されています(2014年現在)。規格別に見ると、アステラス製薬の「シムビコートタービュヘイラー60吸入」が病院外・病院内で処方数/処方金額でどちらもトップです(2014年度)。しかし、全規格を合わせた外来での処方金額を見ると、グラクソ・スミスクラインの「アドエア」が90億円の差をつけて第一位となっています。
β2刺激薬とステロイドの配合剤市場は、「アドエア」と「シムビコート」が長らくシェアを二分していましたが、2013年11月に杏林製薬が「フルティフォーム」を、2013年12月にはグラクソ・スミスクラインが「アドエア」の姉妹品「レルベア」を相次いで発売しています。
▼吸入式喘息治療薬のジェネリックが出ない理由(2018年1月:追記)
「シムビコート」「アドエア」は、どちらも売上が400億円前後あり、通常で考えれば後発品(ジェネリック)が登場してもおかしくない薬ですが、2018年の後発医薬品薬価追補収載が、吸入型喘息治療薬のジェネリック参入の壁となりそうです。
原因として、新規後発品の薬価算定ルールが挙げられます。開発費との兼ね合いで“先発医薬品薬価の5掛け”となると、採算が合わず、後発医薬品が出せなくなるというのです。
開発費がかさむ理由は、吸入器の特許が残っていることです。後発品の場合、吸入器の開発は後発メーカー各社が独自に行わなくてはならないため、内用薬とは違って開発費が余計にかかるのです。
「シムビコート」の後発品統一名は、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会が【ブデホル】に決定しています。一方、「アドエア」は統一ブランドの申請がなく、未定のままです。統一名が決まっているということは、実際に発売されるかどうかは分かりませんが、少なくともジェネリック参入を目指しているメーカーがあるということになります。
▼3社共同開発で、ジェネリック発売へ(2019年2月:追記)
そういった事情でジェネリックの登場が遅れている「シムビコート」ですが、吸入型粉末製剤の専門工場を持つ東亜薬品とニプロ、日本ジェネリック株式会社の3社が協力することで開発費を抑え、後発品を販売しようという動きが出ています。2019年12月の薬価収載に向けて準備が進められているようですが、正確な発売時期については“未定”となっています。
▼シムビコートのジェネリックに2社が参入(2019年12月:追記)
2019年12月、厚生労働省は「後発医薬品薬価基準追補収載」を官報告示しました。その結果、「シムビコート」に東亜薬品と日本ジェネリックの2社が参入することが分かりました。「シムビコート」は年間の売上が470億円(薬価ベース:2019年3月時点)に達している大型製品で、今後の動向が注目されています。
▼気管支喘息の原因解明、新治療薬に期待(2018年3月:追記)
2018年3月、東北大学の研究グループが気管支喘息の原因が“2型自然リンパ球”というリンパ球の活性化であることを発表しました(Journal of Allergy and Clinical Immunology 電子版:2018.2.7.)。気管支喘息を含むアレルギー疾患の新たな治療法開発につながると期待されています。
・気管支喘息(アレルギー性喘息)が起きる新たなメカニズムを発見。
・GITRタンパク質がリンパ球の活性化を介して、気管支喘息を引き起こすことを解明。
・GITRタンパク質を阻害する物質が気管支喘息の新しい治療薬となる
従来のアレルギー疾患の治療で注目されていたのは、アレルギー反応の制御や他の免疫細胞の活性化に関係する免疫細胞【T細胞】でしたが、東北大学はこの免疫細胞の表面に出現する“GITR”というタンパク質が、2型自然リンパ球を活性化することをマウスを使った実験で実証しました。
2型自然リンパ球は、気管支喘息が発生する時に最初に活性化する免疫細胞なので、この細胞が活性化しなければアレルギー反応は起こらないという理論です。
気管支喘息のメカニズムが解明されたことで、気管支喘息を含むアレルギー疾患の新しい治療薬誕生の可能性が高まっています。
▼アステラスが販売終了、アストラゼネカへ販売移管(追記:2019年1月)
2019年7月末で、アステラス製薬とアストラゼネカの「シムビコート」共同販促契約が終了することが発表されました。理由については「2009年に結んだ10年間の契約期間が満了した」とのことです。十年間の契約満了後は1年ごとの契約延長オプションがありましたが、両社間協議の結果、契約を満了することが決まりました。
「シムビコート」は、アストラゼネカが製造と開発を担当し、アステラス製薬が流通と販売を担当していた薬です。8月からはアストラゼネカ1本で流通と販売、販促プロモーションを行っていきます。
「シムビコート」の2017年度の売上高は395億円(前年比0.6%増)でした。「シムビコート」は特許が切れて、後発品の登場が待たれていますが、現在ジェネリック(後発医薬品)の参入はありません。吸入器の問題が残っているからです。後発品の場合、吸入器の開発は後発メーカー各社が独自に行わなくてはならないため、内用薬よりも費用がかかることがネックとなっています。
▼広告のキービジュアル
「シムビコート」のキービジュアルは赤いイーグルです。尾からは炎が出ているように見えます。未来的なビルの中を抜けて、新しい世界へ向かっています。大きさから考えて、おそらく鷹ではなく鷲でしょう。イーグル(鷲)ではなく、“赤いコンドル”だとすれば、手塚治虫の漫画『三つ目がとおる』に登場する武器が思い出されます。古代ムー大陸・三つ目族文明の遺産で、万能の力を持つ架空の祭具で、やはり強さと速さの象徴です。いずれにせよ、赤い鳥は“強い・速い・長い”と三拍子揃った「シムビコート」にぴったりのキャラクターだと思います。
【次のステージ】というキーワードは、医薬品広告に多いビジュアル・イメージです。
一般名:ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物
製品名:シムビコートタービュヘイラー30吸入,60吸入
吸入ステロイド薬/ドライパウダー吸入式喘息・COPD治療配合剤
アストラゼネカ
アステラス製薬
2010年1月発売