トラスツズマブBS/乳がん治療を大きく変えたハーセプチンの後続品

▼トラスツズマブBSとは?

「トラスツズマブBS」は、抗がん剤(抗悪性腫瘍剤)「ハーセプチン」のバイオ後続品(BS:バイオシミラー)です。HER2過剰発現が確認された転移性の乳がんや、治癒切除不能な進行・再発の胃癌の治療に使用されます。

「トラスツズマブBS」は、第一三共にとって初めてのバイオシミラー(バイオ後続品)となります。第一三共は中長期の戦略として、2025年までに“がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業”を目指しています。

▼バイオ後続品(BS:バイオシミラー)とは?

バイオ後続品とは、遺伝子組み換え技術で創られるバイオ医薬品のことです。2009年3月、厚生労働省は“後発医薬品”いわゆるジェネリックとは区別して“バイオ後続品(BS:バイオシミラー)”という新たな分類を定めました。分かりやすく言うと、バイオ医薬品のジェネリックということです。日本国内では、2009年に成長ホルモンの「ソマトロピン」(先発品はファイザーの「ジェノトロピン」)が、初めて承認されたバイオ後続品となります。

バイオ後続品は、先発品とは別の製薬会社によって開発されるため、宿主や培養方法に違いがあり、完全に一致した製品は造れません。その複雑な分子構造と特殊な製造過程ゆえに、先発品と異なる部分が出る可能性が高くなります。一般的な後発品医薬品(ジェネリック)に較べて、かなりハードルが高い製剤です。そういうこともあって、一般的なジェネリックとは区別して“バイオシミラー”と呼んでいます。シミラーとは英語で“Similar:類似した”という意味で、やはり構造上の相違が懸念されているからだと思います。

▼バイオシミラーの課題

バイオ医薬品は低分子医薬品に比べて高価なため、医療費が国の財政に与える影響が大きいことが問題となっています。しかし、安価なバイオ後続品(バイオシミラー)への切り替えはなかなか上手く運んでいません。主な原因は、一般人の認知度が低い点。それから高額療養費制度によって先発品とバイオシミラーで患者の費用負担が変わらないことが挙げられます。症状が安定している患者にとっては、先発品からバイオシミラーへ切り替えるメリットがないのです。高額療養費制度の見直しが当分見込めない現状では、医療保険制度と薬剤に精通している薬剤師の活躍が不可欠です。バイオシミラーの普及へは、薬剤師が中心となって、切り替えの良例を築き上げていく必要がありそうです。

▼抗体医薬とは?

抗体医薬とは、免疫反応が起こるタンパク質(抗体)を人為的に造ったもので、抗体を利用して標的を攻撃する医薬品のことです。遺伝子組換え技術などを応用して、病気に関連する分子だけに結合する抗体を作製します。

抗体医薬はがん細胞にある標的(抗原)にくっつき、攻撃担当の免疫細胞を呼び寄せて標的を殺傷します。標的が限定されるので副作用が軽い(他の細胞に影響を与えにくい)という特徴があります。しかし、効力が充分とは言えず、効果を高めるために様々な工夫が試みられています。

▼遺伝子組換え技術とは

遺伝子組換え技術は、遺伝子を細胞に導入し、その特性を発現させる技術のことです。ヒントになったのは、自然界で起こるウイルス感染です。ウイルスが細胞に感染すると、“自分の遺伝子を宿主の細胞に注入する”という現象が起こります。この現象を参考に、その生物が持っていない特性を持たせるため、別の生物から取り出した遺伝子を組み込むことに成功しました。現在、遺伝子組換え技術は有益な物質を大量に生産したり、作物や家畜の改良などにも用いられています。

最初の遺伝子組み換え技術による医薬品は、ヒトのインスリンで、米国で1982年に承認されました。1986年には最初のワクチンである「B型肝炎ワクチン」が発売されていますが、それ以降、たくさんの遺伝子組み換え製剤が導入されています。糖尿病の治療に必要なインスリンは、これまで豚から取り出したインスリンを使うか、化学反応を駆使して異なる部分のアミノ酸をヒト型へ変換して作っていました。現在では、遺伝子工学によって、ヒトの遺伝子を大腸菌に組み込んで、人間本来のインスリンを安く大量に生産することが可能となっています。

▼乳がんとは?

乳がんは、乳房にある乳腺にできる悪性の腫瘍のことです。非浸潤がんと呼ばれる癌の場合は多くが治るといわれていますが、早期の乳がんでは自覚症状がほとんどないため、発見が遅くなるケースが多々あります。

日本において乳がんは、癌のなかでも罹患率がトップクラスであり、その割合は年々増加を続けています。乳がんを発症する女性の割合は、50年前は50人に1人でしたが、21世紀では14人に1人と言われています(年間約6万人以上)。乳がんで死亡する例は年間約1万3千人で、これは乳がんに罹った患者の30%に相当します。

乳がんの原因ははっきりと解明されていませんが、日本人に乳がんが増えた要因としては、食生活の変化や、女性の社会進出が関係していると考えられています。戦後の食生活の変化に伴って、高たんぱくで高脂肪の食事が増えたことによって、初潮が早く訪れ、閉経が遅くなる女性が増えました。そして、女性の社会進出の増加によって、妊娠出産が減少し、女性が一生のうちに経験する月経の回数が多くなりました。

乳がんの治療には、手術、放射線治療、薬物治療(抗がん剤による化学療法、抗体医薬による分子標的療法、ホルモン剤による内分泌療法など)があります。モノクローナル抗体「トラスツズマブ」は、抗体医薬による分子標的療法に含まれます。

▼トラスツズマブの特徴

分子標的薬である「トラスツズマブ」は、癌細胞の表面にあるHER2タンパクという物質をターゲットにして、癌細胞の増殖を抑える働きを持っています。

「トラスツズマブ」がHER2というタンパク質に結合することで、HER2が出すがん細胞増殖のシグナルをブロックします。さらに、患者が本来持っている自己免疫作用の働きも行います。この複合的な効果によって、により、「トラスツズマブ」は癌に対して治療効果を発揮すると考えられています。

がんの治療方針は、がん細胞の特性や身体の状態、患者の希望に基づいて、その人に最も合った方法(手術、放射線治療、化学療法、分子標的療法、内分泌療法など)を組み合わせて、複合的に行われています。

そのため、まず初めに癌の大きさや悪性度、リンパ節転移の有無、薬物療法への反応性などを調べ、どのようなタイプの癌なのかを知ることが重要です。それによって、ホルモン療法が効くタイプか、「トラスツズマブ」といった分子標的薬が効くタイプなのかに分類されます。

「トラスツズマブ」を使うには、HER2検査を受ける必要があります。IHC法、FISH法の2種類の方法でHER2タンパクの量を調べて、HER2が細胞表面上に過剰に存在している場合(HER2陽性)、「トラスツズマブ」が適応となります。

2001年に先発品の「ハーセプチン」(トラスツズマブ)が発売されたことで、乳がんの治療は劇的に変わりました。それまで予後が悪く、転移しやすいといわれていたHER2陽性乳がんですが、手術後に「ハーセプチン」(トラスツズマブ)を使うようになって(術後補助療法)、近年は再発する患者が減っていると言われています。

乳がん細胞は気がつかない早い段階で、血液やリンパ液によって全身に運ばれることが多く、手術で除去しても、眼に見えないがん細胞が身体に残っている場合があります。この眼に見えないがん細胞が、数年後に再発する可能性を秘めています。見逃してしまった小さながん細胞を抑制するためにも、「トラスツズマブ」などを使った薬物治療(術後化学療法)は非常に有益な治療であると言えます。

▼トラスツズマブの副作用

「トラスツズマブ」の副作用には個人差があり、他の抗癌剤と組み合わせて使う場合、副作用が増加することも報告されています。主な副作用は、発熱や悪寒です。まれに頭痛やふらつき、息苦しさを感じることもあります。重い副作用としては、心不全が挙げられます。重篤な場合、命の危険がありますので、異変を感じたらすぐに担当医に相談しましょう。

▼その他の抗体医薬






▼広告のキービジュアル

広告のキービジュアルは、趣味の絵描きを愉しむ女性とバイオ医薬品を造る男性。乳がんを患った女性の予後を、バイオテクノロジーが陰で支えている、というイメージでしょうか。

バイオ後続品は、その複雑な分子構造と特殊な製造過程ゆえに、その品質が注目される製品です。バイオ医薬品の品質をチェックする姿を描くことで、この製品の質の高さを連想させる効果を狙っています。

アルファベットの“Y”のように見える紫のシンボルマークは、ヒト化モノクローナル抗体を表しています。紫のらせんの帯はDNAのイメージで、遺伝子組換え製品→モノクローナル抗体ということを表現しています。

がんの薬というのは、深刻な要素をはらんだデリケートな薬です。明る過ぎても、製品のイメージにマッチしません。“明るい”ではなく、“暗くない”というぎりぎりのラインを狙った誠実で上品なキービジュアルに仕上がっています。

なお、このビジュアルは、同じ第一三共の「ベバシズマブ」の姉妹編(シリーズ)となっています。

一般名:トラスツズマブ(遺伝子組換え)[トラスツズマブ後続2]製剤
製品名:トラスツズマブBS点滴静注用60mg「第一三共」,150mg「第一三共」
抗悪性腫瘍剤/抗HER2ヒト化モノクローナル抗体
第一三共
アムジェン
2018年11月28日発売

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