▼タリージェとは?
「タリージェ」は、神経の痛みを緩和させる神経障害性の疼痛治療薬です。中枢神経系の“α2δ(アルファ2デルタ)”というカルシウムチャネルの補助ユニットに強力に結合することで、末梢神経が障害されることで起こる痛みを抑えます(α2δリガンド)。
「タリージェ」は、シナプスにおいてカルシウムイオンの流入を減少させ、興奮性神経伝達物質の放出を抑制することで、痛みを緩和させます。作用機序としては、既存薬の「リリカ」と同様の仕組みです。
「タリージェ」は、痛いときにだけ服用する薬ではなく、一定期間服用し続けることで効果を発揮する疼痛治療薬です。そのため、2.5mg、5mg、10mg、15mgと豊富なラインナップが用意されています。医師の指示に従って、服用量や服用回数を調整することを想定しているためです。
身体に薬の成分を慣れさせるために、使い始めは少量(1回5mg)から飲み始め、身体が慣れてきたら、痛みが緩和されるまで徐々に投与量を増やしながら、その患者に適した服用量を見つけていきます。
薬の効果が表れるまでには、時間がかかることがあり、体格や年齢などによって効き目に個人差もあります。少しずつコツコツと治療を続けて、痛みの軽減とともに、痛みによって制限されていた生活の質の向上を目指してゆく、という薬です。
▼痛みの種類
痛みには大きく分けて2種類の痛みがあります。怪我や打撲などの“炎症の痛み(急性疼痛)”と神経が圧迫されたり、何らかの神経障害によって起こる“神経の痛み(慢性疼痛)”です。神経の痛み(慢性疼痛)は、組織が治癒しても更に継続する痛みとされています。
「タリージェ」は、神経の痛みに対して使用される治療薬で、過剰に興奮した神経から出てくる“痛みのシグナルを抑える”という効果があります。
国内では、2,200万人が痛みによる生活の質(QOL)の低下に悩まされており、社会生活に支障をきたしていると考えられています。日本の疼痛治療では長年、「セレコックス」などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が汎用されてきましたが、近年は医療用麻薬とよく似た理屈で作用する薬(中毒性はない)が登場し、腰痛症、変形性関節症、関節リウマチ、帯状疱疹後神経痛などのさまざまな非がん性慢性疼痛症状に対して使われています。
▼末梢性神経障害性疼痛とは?
末梢性神経障害性疼痛とは、いろいろな原因によって末梢神経に損傷や異常が起こって生じる非がん性の痛みのことです。代表的な例としては、糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)や帯状疱疹後神経痛(PHN)、椎間板ヘルニアによる慢性疼痛などがあります。
国内で1,000万人を超える糖尿病患者のうち、糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)に罹患している患者の%は9~22%と報告されています。
【末梢性神経障害性疼痛の代表例】
糖尿病性末梢神経障害性疼痛(DPNP)
帯状疱疹後神経痛(PHN)
椎間板ヘルニアによる慢性疼痛
▼痛みの十年
2001年、米国連邦議会がバイオメディカル振興政策として、2001年からの10年間を“痛みの10年”とする宣言を行いました。背景には、痛みによって甚大な社会経済の損失がある、ということが挙げられます。1991年~2000年までの“脳の10年”政策が輝かしい成果を上げていたので、“痛みの10年”も国家戦略として大々的にスタートしました。米国のこの宣言が発端となり、世界中で痛み(特に慢性疼痛)に関するさまざまな調査と研究が開始されました。日本でも2009年から厚生労働省が「慢性の痛みに関する検討会」を設置し、慢性疼痛に対して現状の課題や今後について検討する取り組みが始まりました。その後、痛みに関連する医薬品が数種類承認されています。
▼リリカやサインバルタとの違い
国際疼痛学会では、神経障害性疼痛は【体性感覚神経系の病変や疾患によって引き起こされる疼痛】と定義されています。神経障害性疼痛の第一選択薬としては、「リリカ」や「サインバルタ」が推奨されています。しかし、疼痛の原因は様々な要素が複雑に絡み合っているため、推奨薬でも上手く効かないケースがあります。そこで、新しい選択肢として登場したのが「タリージェ」です。
製品 | タリージェ | リリカ | サインバルタ |
成分 | ミロガバリン | プレガバリン | デュロキセチン |
作用 機序 |
α2δリガンド | α2δリガンド | SNRI |
効能 効果 |
末梢性神経障害性疼痛 | 神経障害性疼痛 線維筋痛症に伴う疼痛 |
下記に伴う疼痛 糖尿病性神経障害 線維筋痛症 慢性腰痛症 変形性関節症 |
用法 | 1日2回 | 1日2回 | 1日1回朝食後 |
禁忌 | 過敏症の既往歴 | 過敏症の既往歴 | 過敏症の既往歴 MAO阻害剤投与中 高度肝/腎障害 コントロール不良の 閉塞隅角緑内障 |
「リリカ」は神経痛をやわらげる薬で、主に神経障害性疼痛に用います。痛みを伝える神経が傷ついていることで起こる痛みや、中枢性疼痛という脳や脊髄が要因となっている痛みに効果を発揮します。もともとは、けいれんを改善する薬でした。
「サインバルタ」は、もともと抗うつ薬でしたが、うつ病のほかに神経の障害に関係する痛みの緩和にも使われています。ひとつは、糖尿病が原因で起こる“糖尿病性神経障害”です。神経を伝達する細胞の動きが悪くなると、手足が痺れたり、慢性的に痛みが取れません。「サインバルタ」は、そのような痛みに効果があり、糖尿病性神経障害に伴う疼痛に対しては、世界中で第一選択薬(ファーストチョイス)として推奨されています。
▼神経性障害疼痛治療剤の売上
神経性障害疼痛治療薬の市場規模は、2019年に1500億円を超えると言われていますが、売上上位製品の特許切れで、ジェネリック(後発品)が登場することで、市場の伸びは抑えられると考えられています。富士経済によると、2026年には慢性疼痛治療薬の市場の成長率は鈍化すると予測されています。
年度 | 2013年 | 2014年 | 2015年 |
---|---|---|---|
リリカ | 487億円 | 634億円 | 702億円 |
ノイロトロピン | 198億円 | 191億円 | 188億円 |
サインバルタ | 未発売 | 未発売 | 10億円 |
▼タリージェの副作用
「タリージェ」の主な副作用は、傾眠、浮動性めまい、体重増加です。重大な副作用として、意識消失、肝機能障害を生じる可能性もあります。特に注意したいのは“傾眠”です。
「タリージェ」には、めまい、傾眠、識消失などが起こる場合があるので、投与中の患者には【自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させない】よう注意が必要です。特に高齢者は、めまいなどで転倒し、骨折を起こしてそのまま寝たきりになる、というケースもあるので、十分に気をつけてください。
▼広告のキービジュアル
“発売準備中”から含めて、11ヵ月連続の広告出稿。一年間連続は既定路線でしょう。それだけ期待の大きな製品だということです。
広告のビジュアルは、大空を羽ばたいてゆく白い鳥。鳥が写真から飛び出している不可思議なイメージ。ルネ・マグリット作品のような雰囲気があります。マグリットの絵画は「目に見える思考」と呼ばれ、世界が本来持っている神秘性(不思議)をイメージとして提示したものです。青空は痛みから解放されたイメージで、写真の中の曇り空(いまにも雷が落ちそう)は、痛みを表現しています。
曇り空→青空というシチュエーションは、よく使用される使い古された手法ですが、写真から鳥が抜け出す、というアイディアが新鮮です。ライバルである既存薬の「リリカ」(カミナリと虹)を念頭に置いたビジュアルだと思います。
一般名:ミロガバリンベシル酸塩
製品名:タリージェ錠2.5mg,5mg,10mg,15mg
神経系用剤/疼痛治療剤/末梢性神経障害性疼痛
第一三共
2019年4月15日発売