なぜ企業にはブランドが必要なのか?

▼なぜブランドが必要なのか?

製薬会社に限らず、企業はブランドを必要としています。それは、いまの世の中がモノで溢れている時代だからです。多くの製品が氾濫する中で、【製品の価値を高める】【競合品と差別化する】というのが、ブランドの目的となります。

最終的に同じ成分の薬が(添加物の違いなど、厳密に言うと全く同じではありませんが)横並びになった時点で、どこで争うかというと、それは【ブランド力】になってくると思います。つまり、何らかの「付加価値」です。機能や性能が同じなら、多くの人はブランド力のあるメーカーの製品を欲しいと思うでしょう。

たとえば、「コーラといえばコカ・コーラ」 ←これがブランドです。企業のイメージは人それぞれで違った印象を持っていますが、「〇〇と言えば、□□□」と、ぱっと区別できるのがブランド。何かが必要になって、それで検索して見つけてもらう、というのでは遅いのです。必要な時にすぐに思い浮かぶ、というのが真のブランド力と言えます。

製品は、消費者が「この製品は他と違うな」と感じた時に初めて“ブランド”として認められます。企業が自ら「うちの製品はこういうイメージだ!」と思っていても、それは間違いです。ブランドというのは、様々な人々が抱くイメージの集積なのです。

【ブランディングのポイント】
・こんな印象を持って欲しい、という方向性
・必要な時に思い出してもらう、という積み重ねの姿勢

▼医療従事者はモノを買っているわけではない

医療従事者は、単純にモノを買っているわけではありません。医師や病院は、「ニーズ」を買っています。分かりやすく言うと、患者のニーズを満たす価値にお金を払っているということです。人間は、必ずニーズを持っています。そのニーズを満たしてあげることが、客単価を上げ、リピーターを増やし、中長期的な売上へつながってゆくのです。これが、ブランディングの本当の目的となります。

【誰に】
ターゲティング
その製品を最も評価してくれる相手(見込客)
【なにを】
ポジショニング
やりたいけれど、実現していないこと。やめたいけれど、やめられないこと。不満・不足していること。

▼医薬品の顧客ニーズ

一般的に顧客ニーズは、「利便性」「品質」「価格」という3つの要素で構成されています。医薬品の場合、それが「有効性」「安全性」「経済性」に置き換わります。

有効性 既存薬よりも優れた効果、合併症予防効果がある
幅広い効能・効果のある
ターゲット(子供、高齢者、肝機能障害者、腎機能障害者など)が確立している
安全性 使用上の注意が少ない
既存薬よりも副作用が少ない
包装や剤形に工夫がある
経済性 コストパフォーマンスに優れている
服用に際して、他者の手間がかからない
子供や高齢者でも服用しやすい(味、剤形、デバイスなど)

 

医薬品が市場に受け入れられる条件は、下記の2パターンです。そのため、製薬メーカーは“顧客ニーズが高い”製品をターゲットに、自社製品が市場を独占できるように日々努力しているのです。

【1】 顧客ニーズを満たしつつ、信頼感が高い場合
【2】 信頼感は低いが、顧客ニーズが高い場合(他に選択肢がない)

医薬品を選ぶ時、そこには必ずニーズがある!

面白い例として、「スープストック」という飲食店があります。この会社は、ペルソナと呼ばれる人物(ターゲット)の仮説をwebで公開しています。ここまで設定を考えて製品を作っているのか! と驚くくらい、想定されるユーザーのニーズを徹底的に掘り下げている良いお手本です。

▼医師には製品を信頼するまでの高い壁がある

医療従事者は命にかかわる職業柄、誇大広告に対して敏感です。インパクトのあるキービジュアルを視せても、「カッコいいだけの広告には騙されないぞ」「良いことばかり書いてある製品は信用できない」という心理的な壁に阻まれて、すぐに興味を失くしてしまいます。心の中のバリアを解除してもらえなければ、情報が相手に伝わりませんし、薬の採用へ繋がっていきません。

では、どうしたら良いのか?

医師には、製品を導入しようと思うまでに不安が残っています。その不安を取り除いてあげるのが【ブランド戦略】と呼ばれている手法です。いきなり高い壁は乗り越えられないので、段階的に信頼を得ていきます。つまり、階段を作ってあげるのです。

まずステップ1は、興味・共感です。この薬は自分に関係がありそうだ。これは自分の患者さんのことだ、と感じさせるプロモーションを行います。ステップ2は、その薬を使うと、どんな良いことがあるのか、利用した時の喜びや使用した結果を、具体的に可視化して見せてあげます。細かい数字やエビデンスを見せることで、心理的なハードルが下がり、製剤の説得力がより増すというわけです。

医療用医薬品は製品の性質上、特徴を表現すると、どうしてもある程度“理屈”っぽくなってしまいます。説明だけのキービジュアルでは、関心が低いドクターには簡単にスルーされてしまいます。医薬広告の制作者は、“ビジュアルと理屈のバランス”を強く意識しているのです。

▼医療用医薬品のトーン&マナー

デザイン用語に「トーン&マナー」という言葉があります。これは簡単に言うと、デザインに関するルール化で、「〜っぽさ」を表現するための決まりごとです。例えば、Appleやディズニーは、広告やwebサイトなどに一貫性があり、ひと目で「Appleだな」「これはディズニーだ」というのが判るように出来ています。

「トーン&マナー」は、基本的に4つのエレメントを決まれば世界観が出来ると言われています。
それはつまり、【字:フォント】【色:キーカラー】【絵:ビジュアル】【線:ライン】です。

Appleのトーン&マナー。ひと目でAppleと判る世界観

▼製薬企業のブランディングとは?

製薬会社のブランドとは、ユーザーの立場から考えれば、実際に使用した製品、広報活動、広告などを通じて、その人の中で構築されるイメージの総体です。

一方、製薬会社にとってみれば、ブランドとは事業内容そのもののことを指す場合が多いです。ブランドとは、企業理念や存在意義を凝縮したものであり、社会との接点です。

医薬品のブランディングとは、独立して存在するものではなく、世の中との関わりを示すことで初めて成立するものです。企業の方向性を掲げるだけでなく、社会における製薬会社の役割をきっちりと提示することで、製品の価値が明確になり、市場へ浸透し、消費者へ共有されやすくなります。

広告、広報活動、ブランディングの違い

ブランディングの最終目的は、単なるイメージ戦略ではなく、“人の心を動かし、市場を動かし、社会を動かして、好循環を創造すること”にあります。社会にとって有意義なブランドであれば、そこに関わる人は、そのブランドを応援してくれます。利用者の満足度を高めることで、競争に巻き込まれることが減り、ブランドへの信頼感は、中長期的な収益に繋がっていきます。そして社会的な評判は、新規の優良顧客を生み出しやすくしてくれるのです。

 

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