更なる血糖降下、その先にある患者さんの未来のために
▼トラディアンスとは?
「トラディアンス」(一般名:エンパグリフロジン/リナグリプチン)は、DPP-4阻害薬の「トラゼンダ」とSGLT2阻害薬の「ジャディアンス」を配合した2型糖尿病の治療薬です。“DPP-4+SGLT2”という組合せの配合錠は、「カナリア」(2017年発売)と「スージャヌ」(2018年発売)に続いて国内3番目となります。なお、米国では2015年1月、EUでは2016年11月に承認されています。
「トラディアンス」は、2型糖尿病を対象疾患とする、「トラゼンダ」「ジャディアンス」のいずれか単剤による治療の効果が不十分で、かつ併用治療が適切と判断される場合に処方されます。
2つの薬を1錠にした「トラディアンス」は、患者の服薬アドヒアランスを向上させることを目的に開発された配合剤です。ふたつの成分の特徴が打ち消されることなく、それぞれの薬の効果を得られることが国内の試験で確認されています。
SGLT2阻害薬は体重が減りやすいという特性から、痩せていて腎機能が弱っている人が多い高齢者には投与を避ける傾向がありました。そのため、日本国内では当初あまり評価されなかったという経緯があり、日本の糖尿病患者の約70%が使用していると言われるDPP-4阻害薬(事実上の第一選択)と組み合わせた配合剤で挽回する狙いです。
▼トラディアンスの特徴
「トラディアンス」の特徴としては、DPP-4阻害薬「トラゼンダ」の特性である【胆汁排泄型】ということが挙げられます。腎機能の程度にかかわらず、同じ用量(1日1回1錠、5mg)で一貫したHbA1c低下作用を示す薬剤です。
SGLT2阻害薬「ジャディアンス」の主成分は、未治療の2型糖尿病患者を対象とした国際共同試験で、76週間にわたってHbA1c低下作用を維持することが確認されています。空腹時、食後の区別なく、血糖値を全体的に下げることが出来る薬剤です。
また、SGLT2阻害薬(ジャディアンス)のグルカゴン上昇作用をDPP-4阻害薬(トラゼンダ)のグルカゴン低下作用で相殺できるという利点もあります。
▼トラディアンスの注意点
「トラディアンス」の注意点としては、以下の4点が挙げられます。
【1】甘いものが食べたくなる、【2】服用開始1週間は、水をたくさん飲む、
【3】陰部を清潔に保つ、【4】糖尿病以外の病気に罹った時は休薬する
SGLT2阻害薬は、服用することで食欲が旺盛になったり、甘いものを欲するようになることがあります。食事指導に注意が必要です。服用中は、尿の量が増えて脱水を起こしやすいため、毎食後に水を飲むなどの対策が必要です。また、尿の回数が増えるので、泌尿器系の病気の予防として陰部をできるだけ清潔に保つことが大切です。
▼トラディアンスの主な副作用
「トラディアンス」は配合剤ですので、まず単剤と比較して場合の副作用が懸念されます。しかし、承認時の国内第III相比較試験では、配合剤特有の有害事象は確認されませんでした。「トラディアンス」の副作用はそれぞれの単剤で認められるもので、いまのところ配合剤特有の有害事象はみられないということです。
「トラディアンス」の主な副作用としては、血中ケトン体増加、無症候性細菌尿、膀胱炎などは報告されています。重大な副作用としては、「トラゼンダ」「ジャディアンス」単独投与時にも認められている低血糖、脱水、ケトアシドーシス、腎盂腎炎、敗血症、腸閉塞、肝機能障害、類天疱瘡、間質性肺炎、急性膵炎などが挙げられます。
▼糖尿病とは?
糖尿病には1型と2型が存在します。1型糖尿病は膵臓に存在するβ細胞と呼ばれるインスリンを分泌する組織が壊れてしまっている状態の病気です。インスリンが分泌できないため、血糖が高くなってしまいます。インスリン注射を打って、治療します。
一方で2型糖尿病は、生活習慣や肥満などによってインスリンの効きが悪くこなることで発症する病気です。「トラディアンス」は、2型糖尿病に対して使用する薬です。2型糖尿病治療では、薬を使う前にまずは食事の改善や運動療法が試されます。
そして、食事療法や運動療法を行っても血糖値の改善が見られない場合に、2型糖尿病治療薬(単剤)が処方されます。さらに単剤による治療の効果が不十分で、かつ併用治療が適切と判断される場合には、「トラディアンス」のような配合剤が処方されます。
糖尿病治療のゴールは、血糖・体重・血圧・脂質の安定したコントロールで合併症の発症を阻止し、健康人と遜色のない健康的な寿命を全うすることです。
近年、患者が増え続けている2型糖尿病の治療薬は製薬メーカーのドル箱製品となっており、糖尿病治療薬は多様化しています。選択肢が豊富なことは良いことではありますが、多剤併用による低血糖や体重増加といった危険には注意が必要です。薬の選択には、食生活の変化や運動不足、超高齢化といった社会的な要因を考慮する必要性が高まっています。
▼トラゼンタとは?
「トラゼンタ」は、いわゆる“DPP-4阻害薬”と呼ばれる血糖を下げる糖尿病の薬です。国内で4番目となる選択的DPP-4阻害薬で、当時既存の3製剤(ジャヌビア、エクア、ネシーナ)の腎排泄型とは異なり、胆汁排泄型である点が最大の特徴です。ほとんど代謝を受けないで、胆汁から未変化体で排泄されます。排泄経路が腎臓ではなく、主に便として排泄されることから、腎機能が低下している患者にも用量調節の必要がありません(腎機能の程度によらず5mg投与量)。
2型糖尿病患者の3人に2人が、腎機能障害を起こすリスクを有しているという米国の調査報告がありますが、こうした患者に胆汁排泄型を投与すれば、血中濃度が上昇して副作用が発現するリスクを減らせるわけです。
▼DPP-4阻害剤とは?
選択的DPP-4阻害剤は従来の糖尿病治療薬と違って、インスリンを過剰に分泌させません。低血糖のリスクがほとんどなくなるということです。DPP-4阻害剤は新しい種類の薬なので、薬価が高いのがデメリットですが、今のところ周囲に敵なし、という感じで売れ行きが増加しています。DPP-4系の糖尿病治療薬は日本では事実上、第一選択薬(ファーストチョイス)の地位を築いています。禁忌や慎重投与となる条件が少なく、幅広い層の患者をフォローしているので、いろいろと使い勝手が良いのだと思います。残された課題は、長期安全性の立証と大血管合併症の発症や予防に関するエビデンスの確立と言われています。
▼ジャディアンスとは?
「ジャディアンス」は、血糖を下げる糖尿病の薬です。腎臓の尿細管で糖の再吸収を抑制(SGLT2というトランスポーターを邪魔する)することで、余計な糖分を尿として排出させる効果があります。過剰な糖が尿として排泄されることによって、血糖値を下げる薬です。単独では効果が弱いので、他の糖尿病治療薬と併用する場合が多いようです。
▼SGLT2阻害剤とは?
SGLT2阻害剤は、比較的安全で質の高い血糖コントロールが期待できる薬剤です。体重の減少効果が特徴で、日本よりも肥満の多い欧米で注目度が高い薬です。HbA1cを下げるレベルはDPP-4阻害剤と同じようなレベルと言われ、食後血糖値も空腹時血糖も全体的に下げるため、血糖値はインスリンを使った時に近い挙動になります。低血糖を発症するリスクが少ないのもDPP-4阻害剤と同様です。最も適する糖尿病患者のタイプは“肥満でインスリンの分泌が比較的保たれている患者”ということになります。逆に、痩せている人や高齢者には注意が必要です。
副作用で気をつけなければいけないのは、尿路・生殖器感染症です。排泄される尿が糖分を多く含むようになるので、細菌が繁殖しやすくなります。膀胱炎、尿路感染症、膣カンジダ症といった副作用が現れることがあります。その他の副作用としては、発熱、頻尿、排尿痛、陰部の腫れやかゆみ、脇腹や背中の痛みなどが報告されています。
▼あらためて脚光が当たるSGLT2阻害剤
SGLT2阻害剤については、血糖降下作用や体重減少効果だけでなく、心血管イベントのリスク減少といった複合的な効果が明らかになりつつあります。2015年9月、ストックホルムで行われた「欧州糖尿病学会」において、エンパグリフロジン(ジャディアンスの有効成分)で心血管死亡率は38%も減少したという大規模試験の結果が発表されました。いま、欧米ではあらためてSGLT2阻害剤に脚光が当たっています。
大規模試験の結果でエビデンスが出てきたこともあり、日本糖尿病学会は2016年5月に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するレコメンデーション」の改訂を行いました。改訂の結果、高齢者でも適応可能と考えられる対象患者数が拡大しています。
米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)が共同で作成している「2型糖尿病の高血糖管理に関するコンセンサスレポート2018」では、心血管疾患(CVD)や心不全を合併する場合にSGLT2阻害剤を積極的に推奨するという草案が発表されました。一方、DPP-4阻害薬「トラゼンタ」は、2018年10月の欧州糖尿病学会で長期的な心血管安全性を示した「CARMELINA試験」の結果が発表される予定です。
今回発売準備中の「トラディアンス」は、「ジャディアンス」と「トラゼンタ」のふたつの大規模試験のエビデンスを持った新製品ということになります。
▼糖尿病市場は配合剤が主流へ
市場を拡大し続けているDPP-4阻害剤ですが、売上高を見るとやや頭打ちの状態です。DPP-4トップの「ジャヌビア」は、2014年の薬価改定から下降気味で、売上が伸びているのは「トラゼンタ」と「テネリア」の2製品となっています(2013〜2016年度)。
この状況を打破するために期待されているのが配合剤です。糖尿病治療薬市場では、DPP-4阻害剤と他の薬剤を合わせた配合剤が増えています。これまで、ビグアナイド系やチアゾリジン系を配合した製品が発売されてきましたが、SGLT-2阻害剤の配合錠も3製品(「カナリア」「スージャヌ」「トラディアンス」)が登場しました。生活習慣病領域という大きな市場に、単剤と配合剤が乱立している状態です。
この構図、何かに似ていませんか? そうです。降圧剤(高血圧治療薬)の市場に良く似ています。降圧剤はARB+他の薬剤という配合剤が流行り、急速にシェアを高めていきました。
DPP-4阻害薬+SGLT2阻害薬の配合剤の売上(2018年4~6月期)を見ると、「スージャヌ」が15億円(通期予想45億円)、田辺三菱製薬の「カナリア」が14億円(2018年4〜6月だけで単剤「カナグル」と並ぶ売上)と当初の予想を大幅に上回っています。降圧配合剤のように配合用量や製品名が複雑でないことも売上を後押ししているようです。かつての降圧配合剤(ARB+他の薬剤)をしのぐスピードで糖尿病市場の配合剤へのシフトが進む可能性もあります。
▼広告のキービジュアル
広告のキービジュアルは、白馬にまたがった銀の重騎兵(heavy cavalry)。“白馬+騎兵”は、配合剤を表しています。重騎兵は、ここでは突破力と機動力の象徴です。力強く、躍動感を感じさせるビジュアルに仕上がっています。
陸上のハードル競技のように置かれた鉄の柵は、血糖コントロールの目標値でしょうか。柵を飛び越えることで、血糖値の目標達成というイメージを喚起させています。
「トラゼンダ」や「ジャディアンス」のビジュアルイメージは踏襲せず、まったく新しい世界観で次世代の糖尿病治療薬(配合剤)ということをアピールしています。鎧で重武装していて、いかにも強そう(効きそう)です。
一般名:エンパグリフロジン/リナグリプチン配合錠
製品名:トラディアンス配合錠AP, トラディアンス配合錠BP
糖尿病用剤/胆汁排泄型選択的DPP-4阻害剤/選択的SGLT2阻害剤
ベーリンガーインゲルハイム
イーライリリー
発売準備中/2018年11月発売予定